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周りの人のために歌うほうが性に合う

──アルバムの制作はいつ頃始めたんですか?

廣瀬 プリプロを始めたのが10月くらいだったっけ?

OKD うん。それでレコーディングに入ったのは11月だね。そのときに配信用の3曲を録り終えて。

──今回セルフタイトルの「nicoten」という作品になりましたが、どういうテーマで作られたアルバムなんですか?

宮田 既存の曲も入れつつ、書き下ろしの新曲を追加して、アルバムに設けたテーマに寄せていった感じですね。

──そのテーマというのは?

宮田 nicotenが2013年にリリースしたEP「Exit e.p.」に「グッジョブ!」という曲が入ってるんですけど、この曲を好きだって言ってくれるファンの方がすごく多いんですよ。「グッジョブ!」は「そんなに頑張りすぎないで」って、汗水たらして働く人たちを励ます曲なんです。1枚を通して「グッジョブ!」で歌っている内容を伝えられる1枚を作りたくて。中でもリードトラックの「サイダーの泡」だったり、最後を締めくくる「休日戦線異状なし」だったりはこのアルバムのコンセプトにぴったりだと思っています。

廣瀬 アルバムのテーマが明確になってから俺が新しく書いた曲もたくさんあって。俺はいつも歌詞を宮田くんとOKDにお願いしてるんですけど、2人がそのテーマに寄せた歌詞を書いてくれました。

OKD 今回はリスナーの姿を想像して書いた歌詞が多いですね。

宮田 うん。そうかも。今までも自分のことはあんまり歌ってこなかったんですけど、今回はこのアルバムを聴いてくれる“誰か”の日常、その“誰か”が言われたいであろう言葉を考えて歌詞を書きました。俺の場合、私生活が面白くないから、自分のことを書いてもあまり物語にならないんですよ(笑)。というか、周りの人のために歌うほうが性に合っていて。

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笑ってもらいたい「1.2.3」、王道の「テレパシー」

──冒頭の「1.2.3」では初めてラップを取り入れてますね。

宮田 2014年ぐらいには原型があった曲なんです。当時は頭の「1.2.3でジャンプして」ぐらいしかなかったですけど(笑)。

廣瀬 ラップパートは人によっては必要ないと思うようなパートを入れたくて今回入れたんです。ここにラップが入ることによって締まるなと思って提案したら、デモを作ったときに宮田くんが歌詞を乗せてくれて、完成に向かっていきました。

宮田 AメロならAメロだけ、BメロだけならBメロ、サビだけならサビだけ…みたいに部分ごとに切り取ってもいいと思えるものにしたかったんだよね。歌詞の面では「グッジョブ!」と同じように、「イライラしてもいいよ」って言われることで、「イライラしてたかも」って気付いてクスッと笑ってもらえたらいいなって思って。なんか「がんばれ」とか「イライラするなよ」とか言われなくてもわかってるよって思っちゃうしね。

──2曲目の「テレパシー」は先行配信されたナンバーです。

廣瀬 「テレパシー」ってめっちゃ正攻法な曲なんだよね。「このコード進行なら名曲っぽくなるでしょ」っていういわゆる王道のきれいなコード進行の曲で。でもそこからもう1個頭一つ抜けるにはどういうアレンジにしたらいいのか、いろんなアーティストの曲を聴いて考えました。

宮田 僕らの音楽を愛してくれるファンの人たちにきちんと思いを伝えたいという気持ちで歌詞を書きました。語り口調で始まるところも気に入っています。

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久々にMVを作った「サイダーの泡」、DCカードのCM曲みたいな「Summertime」

──リードトラックの「サイダーの泡」はまさにアルバムのテーマを象徴するような曲ですね。

宮田 これもけっこう前からあった曲だよね。オケができたのは2013年ごろだっけ?

廣瀬 そうそう。歌メロがなくてオケしかない状態だった。イントロ流れて「はい、歌って!」って思いついたもん勝ちで歌メロを乗せていった曲だね。でもなかなか完成には至らなくて。このアルバムを作ることが決まったときに宮田くんが「“まほう”ちゃんと作りたくない?」って言い出して、ちゃんと作り上げて。「サイダーの泡のように〜」のところのメロが浮かんだとき、「俺、天才かも!」って思った(笑)。

宮田 あはは(笑)。あのメロディいいよね。俺はそのメロディのところで最後だけ「サイダーの泡のように弾ける音がする あなたの声でずっと私に魔法をかけて」っていう歌詞に変わるところが気に入ってる。

──ミュージックビデオも素敵でした。

宮田 自分たちがちゃんと出演してるMVって、この曲が初めてで。というかnicotenって全然MVを出してこなかったので、ここで1つわかりやすいものを作りたかったんです。完成したMVを見てやっぱり今回MVに出演していただいた岩井七世さんはすごく音楽が好きな方なんですよ。だから今回のMV出演を喜んで引き受けてくれて、それも嬉しかったです。

──「Summertime」はカリプソ風というか、随分振り切ったアレンジですね。

廣瀬 ちょっと「DCカード」のCMっぽくない? アロハシャツに短パンの中井貴一が踊ってるような……。

OKD それ15年くらい前のCMでしょ(笑)。でも確かにオザケンっぽさはエンジニアの人と歌入れのときに話してたんだよ。宮田くん本人にオザケンっぽく歌ってって言うと寄せ過ぎちゃうと思って内緒にはしてたんだけどね。

宮田 そうなの?

──ふふふ(笑)。アルバムのために書き下ろした曲なんですか?

OKD いや、デビュー前ぐらいからあった曲です。歌詞はアルバムに入れることが決まってから書きましたけど。自分の中では単調だなあって思って、そこまでいい曲だと思ってなかったんだけど、廣瀬と宮田くんがすごく気に入ってくれて今回入れることになりました。

宮田 OKDの曲は歌を乗せてみないとよさがわかんないことが多いんだよ。

OKD それは俺の仮歌が下手だからじゃないの?(笑)

宮田 いやいや、そういうわけじゃないんだけど、なんか歌ってみたらめちゃくちゃ名曲に化けるケースが多くてね。「Summertime」は歌を入れる前からいいメロディだなって思ってたよ。

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廣瀬プロデュースの「半径6センチメートル」、“nicoten絶対やらないシリーズ”「にびいろジーン」

──5曲目の「半径6センチメートル」も「テレパシー」と同じく先行配信されていた曲ですね。

宮田 実はアニメの「銀の匙」のコンペに出すために書いた曲なんです。結局いろいろあってコンペには出せなかったんですけど……。俺が言いたかったことは2番のBメロに詰まってて、「好きな歌いつも飽きずに 何回もリピートをしてた〜♪」っていうところ。これは今の自分がすごく思うことで、昔好きだった曲を今聴くと「何がよかったんだっけ?」って思うことが増えてきたんですよね。昔のそういう気持ちを忘れている自分に気付いて、純粋に音楽が好きでバンドをやり始めた頃の気持ちを忘れたくないっていう思いを込めました。

廣瀬 最初、宮田くんに弾き語りのデモをもらったとき、BメロがAメロだったよね。

宮田 そうそう。最初Bメロとサビしかなくて、ナリがAメロを足してくれて。

廣瀬 もう1つ展開が欲しかったんだよね。Aメロのオケだけ作って宮田くんがメロディを乗せて。俺はプロデューサー気質だから、曲を聴いたときに「この曲はこうしたらいいな」っていうのは浮かぶんだよね。なんかこの曲はバンド内でそれが成功した1個の例かなと思います。

──「にびいろジーン」はどういう曲なんでしょうか?

廣瀬 歩いていて一番気持ちいいテンポを探して、このテンポに何が乗ったらいいのかなと思ってオケを作って、メロディを乗せた新曲ですね。タイトルはまあご察しのとおりでして(笑)、歌詞のテーマとしては今年の1月くらいにいろんな不倫ブームがあったじゃないですか。当事者同士じゃなくて不倫した男の奥さんが一番何も言えない、訴えられないっていうのを考えて、その人の気持ちを歌にしたかったんです。

OKD で、俺がそのオーダーを受けて歌詞を書きました。これで男たちが震え上がってくれたら本望かも(笑)。

廣瀬 作曲した俺的には、この曲はほかの曲と違う場所にいてほしかったんです。あえてドラムを打ち込みにして、派手なシンセを入れて、声もケロらせて……“nicoten絶対やらないシリーズ”みたいなものをこの1曲にぶち込みました。

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勝手にアンサーソング「私が今日泣いたことは桜のせいにして」、バンドを歌った「歩幅」

──「私が今日泣いたことは桜のせいにして」はここまでの流れをぶった切るような力強いバンドサウンドを打ち出した1曲です。

宮田 ゴリゴリのバンドサウンドの曲を作りたいっていうのが大枠としてあったんですよ。きのこ帝国の「桜が咲く前に」がすごく好きで、それのアンサーソングのつもりで書いた1曲で。桜が咲くタイミングで旅立った人がいて、旅立たれた側の人の気持ちを歌にしたんです。あと“桜なんて嫌い”っていうフレーズを入れたくて。これは俺が好きな「最高の離婚」っていうドラマの中で出てくる言葉なんですけど、なんとなくその言葉が頭の中にずっとあって。いつか歌詞に入れたいと思っていたんです。

廣瀬 サウンド面の話で言うと、今まではサウンドの方向性を俺が考えてきたから、宮田くんが曲のイメージをきちんと作ってきてくれたのがよかったなって。なんか親心みたいな話になるんだけど、宮田くんがそこまでサウンドの構想ができてることが嬉しかったんだよね。だから俺も腕が鳴るなと思ってレコーディングに臨んだし。この曲はゴリゴリのバンドサウンドで、アルバムの中で異質を放ってくれてありがとうございますっていう感じ。フルアルバムだからこそ入れられた曲ですね。

──「歩幅」はループ感が心地良い1曲です。

廣瀬 これも2013、4年くらいにあった曲だね。nicotenが活動していく中でなんとなくメンバーの足並み揃わない時期があって。仲が悪いとかじゃないんだけど、見てる位置とか歩くスピードが違うというか……。雰囲気としてそれぞれの進むスピードがずれている時期があったと思っていて。楽曲はずっとループし続けるんだけど、歌詞に込めたメッセージで畳み掛けていくようなものにしたかったんですよね。まあ歌詞を書いたのはOKDだから、俺の思う“歩幅”とは違うOKDなりの“歩幅”について書いた内容にはなっているんだけど。

OKD 俺はメンバー間というより、お客さんとの関係性を書いたかな。単純に誰かを応援するときに、背中を押すでもなく、引っ張っていくでもなく、となりで一緒に歩んでいこうよっていうのがnicotenらしいかなと思ったんだよね。これが一番時間を掛けて歌詞を書いた曲です。

──アルバムの中で唯一nicotenのことを歌ってる歌になるんですかね。

OKD 本質としてはそうなるのかな。廣瀬の意図を汲んで書いたわけじゃないけど、普遍性のあるテーマで書けたと思うから、そういう意味ではバンドのこととも取れますね。独立して初めて出すアルバムだし、自分たちの置かれてる環境みたいなのを表現したいという気持ちはあったと思う。あと前回「アンシャンテリーゼ」で「真夜中特急ノスタル号」をUNISON SQUARE GARDENの田淵さんと共作したんですけど、そのときに培った作詞の方法とかを取り入れて自分1人で書いてみたかった。そういうチャレンジをした歌詞になっています。

宮田 俺、最初は歌詞の内容が暗いなと思ったんだよね。でも曲自体が明るい雰囲気だったから、そんなに暗い感じにならなかったし、歌っていて気持ちよかったですね。

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nicoten初のド直球ロック「杏仁豆腐の逆襲」、二日酔いから生まれた「休日戦線異状なし」

──「杏仁豆腐の逆襲」はライブでもお馴染みの曲ですね。

廣瀬 俺、基本曲を作るときはピアノを使うんだけど、「杏仁」はこのアルバムの中で唯一ギターで作った曲なんです。1回ボツになったけど、宮田くんが「杏仁豆腐食べたい 関係ないけど」ってフレーズを気に入ってるからどうしても歌いたいっていうからちゃんと作ることにして。「杏仁豆腐食べたい 関係ないけど」を歌うためにキャッチーなイントロとキャッチーなサビを作って完成した曲です。

宮田 絵描きの友達が母親に「目の前に壁ができたってその壁に絵を描くぐらいの気持ちでいなさいよ」って言われたっていう話を聞いて、その言葉すごくいいなって思ったんですよ。俺も目の前に壁ができたらそれぐらいの気持ちで臨みたいっていう思いを込めた曲です。最近俺、説教臭い曲は苦手だなあって思うんですよ。音楽を聴いて楽しみたいのに説教されて疲れちゃうのはなんだか本末転倒と言うか……。真面目なことを言いたいからこそ、わけわかんないフレーズを入れてバランスを取りたかった。

廣瀬 「杏仁豆腐食べたい 関係ないけど」ってアレ以外のメロディがないっていうぐらいハマってるよね。

宮田 うん。しかもあれがあることによってサビで一気に加速する感じが出てると思う。

廣瀬 そうだね。今までこういうどストレートなバンドサウンドの曲って、俺らはあんまりやってこなかったけどさ、「杏仁」にはちゃんとnicotenらしさがあるなって思ったよ。俺は、どこをどう切っても、どう着飾っても、nicotenらしさがあるのは俺たちの武器だなと、このアルバムを作りながら確信したね。

──「休日戦線異状なし」も働く女性が目に浮かびますね。

廣瀬 きれいな1曲に仕上がってるんですけど、元々この曲は俺が二日酔いのときに作った曲なんです。朝起きたら地獄でこのままじゃいけないなっていう内容の仮歌が最初に入っていて(笑)。状況の変化をメロで作れた自信がある曲で、歌詞と相まってだけど、メロで時間の経過が見れるのが本当に良かったなと思う。

──この曲って廣瀬さんの個人盤に入っていた曲ですよね? なぜ今回このアルバムに?

宮田 これはメンバー推薦枠だね。

廣瀬 ボーナスステージ(笑)。

宮田 で、OKDだけ入らないから「逆襲盤」が出るっていうね(笑)。

OKD ふふふ(笑)。ライブ会場に来た人は「逆襲盤」を買ってください(笑)。アルバム全体を通してのストーリーを考えたときに、バシッと締めくくるのはnicotenぽくはないなと思って、「休日戦線異状なし」で終わるのがなんか「らしいな」と思ったので、今回入れることになりました。

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“nicoten”を追求した「nicoten」を経て、どこへ向かうのか

──改めて「nicoten」が完成して、今の心境はどうですか?

廣瀬 自分たちがみんなに届けに行かないと始まらないなと思っています。だからライブでアルバムの曲を鳴らしたいっていう思いでいっぱいですね。

宮田 あとはさ、次の作品をどうしようかなっていう思いが生まれてきたね。次のやりたいことも含めて、アルバムができたからこそ一歩前に進めたというか。

廣瀬 でもさ、セルフタイトルだったことで「解散!?」とかいろいろ思わせちゃったみたいなんだよね。セルフタイトルってそれぐらい回りを考えさせちゃうってことを知ったというか。セルフタイトルを出すっていうのは1つターニングポイントなんだなって、改めて思ったし、俺らは今そういうところにいるんだなってその反応を見てわかって。やっぱりnicotenって楽しいとか、聴いてみんながハッピーになるとか色んな要素があるけど、イマイチどういうバンドかって聞かれると答えられなくて。でもやっと歌いたいことが決まってきた。俺たちがやらなきゃいけないこともツアーを回って見えてきた。そんなときにもっと“ミュージシャンズ・ミュージシャン”になっていかなきゃいけないなと思っていて。そういう意味ではnicotenはガラッと今後変わる……というか、変わっていかなきゃいけないなと思っています。もう俺らは新人バンドって呼ばれる時期は過ぎたし、もっと深みを増して行かないと。30歳になって「トビウオのように飛び出して」って歌っている宮田くんを俺は想像できないから。

宮田 ジャンプしてる俺が想像できない?(笑)

廣瀬 ふふふ(笑)。いい30歳を迎えるために今からしっかりしていかないとさ。みんなのミュージシャンとしての軸がぶれていったときが一番サムイと思うしね。

宮田 楽しく音楽をやっていたnicotenの完成形が「nicoten」かもね。それを1つ終わりにしようって。

廣瀬 完全に自己満の話なんだけどね(笑)。俺らの中では1つの区切りだと思う。

宮田 これからの俺らの動き次第で、嫌われる可能性もあるよね。ミュージシャンズ・ミュージシャンになるべく急にメタルバンドになっちゃうかもよ(笑)。

廣瀬 あはは(笑)。次作をどういう作品にするかはまだ構想中です。nicotenを追求しきった「nicoten」を出して、今度は俺らがどこへ向かうのか楽しみにしていてほしい。

──最後に何か言っておきたいことがあればどうぞ。

廣瀬 俺らの活動を手伝ってくれる人が欲しい(笑)。

宮田 自分たちで舵を取れるのは面白いんだけど、どうしても人手不足で……。面白いアイデアがある人や俺らの活動のサポートをしてみたいっていう人がいたらいいなとは思っています(笑)。

OKD 日々勉強って感じだもんね。専門の人がいたらどれほどいいかと。

宮田 ということなので、もしそういう人がいたらご連絡ください。よろしくお願いします(笑)。